森田のワンポイント・コラムVol.4
2月に入ってから『コロナウィルス』という言葉を耳に目にしない日はありませんね。
コロナウィルスにより死亡した方が入院していた医療機関は私のクライアントであり
大変身近に感じている事案です。
みなさまはマスクや消毒用のアルコールの購入は大丈夫ですか?
私は幸い大学受験真っ最中の息子がいることもあり、インフルエンザ対策として
クレベリン、マスク、消毒用アルコールなどを例年よりも多めに準備していましたので、
まだ、今のところ不足はしていません。
ネットでマスクの値段を見ると通常の20倍~30倍の値段で販売されています。
販売している人の気持ちが判りません。
さて、このコロナウィルスですが早々に国が『指定感染症』としました。
そして、医療機関への相談に関するガイドラインも発表しています。
「症状を感じたら仕事を休むように」と総理大臣のコメントもありました。
BCPの観点と労働安全衛生の観点から対策を求められる難しい問題ですね。
「荷主から荷物が出れば運ばなければならない」
「運ばなければ売上が上がらない」
「売上が上がらなければ給料が払えない」
中小零細の物流企業から聞こえて来そうな声です。
このたびのコロナウィルスの問題はこのような実情を変えるためには
良い機会なのではありませんか?
もしも、今日、社員が「体調不良により休みが欲しい」と申し出たら・・・
あなたは、どのように対応をしたら良いのか理解していますか?
貴社の就業規則等には必要充分な規定がありますか?
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」では、
感染症を以下のように定義しています。
「感染症」とは、一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症、
新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症に区分しています。
例えば、ノロウイルス(感染性胃腸炎)や季節性インフルエンザは「五類感染症」に分類され、
O-157(腸管出血性大腸菌感染症)は「三類感染症」に、
2003年に流行したSARSコロナウイルスは「二類感染症」に分類されています。
原則、ノロウイルス等の五類感染症は感染しても就業制限はなく、
一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症は、就業制限に該当します。
従って、今回のコロナウィルスは就業制限に該当することとなりますね。
なお、就業制限を行う場合は、都道府県知事名で患者(無症状病原体保有者※1含む)
またはその保護者宛に書面によって通知されることになっていて、その通知に従い、
就業制限することになります。
ただし、無症状病原体保有者は保健所などが行う疫学調査や健康診断などにより
確認された場合には就業制限が適応されます。
また、労働安全衛生法第68条では
「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、
厚生労働省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない」としています。
そして、労働安全衛生規則第61条では、次の①から③に該当する対象者の就業を禁止しています。
- 毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者(ただし、伝染予防の措置をした場合は除く)
- 心臓、腎臓、肺等の疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれのあるものにかかった者
- 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものにかかった者
ただし、上記ケースで就業を禁止しようとするときは、あらかじめ
産業医その他専門の医師の意見をきかなければならない。
社員が本人の健康管理を怠ったことにより出勤できなくなった場合には、当然ながら
「ノーワーク・ノーペイの原則」により、賃金の支払いは不要です。
ただし、賃金は民法、休業手当は労働基準法で規定されており、
いずれの場合でも会社の責任で休業させた場合には、賃金等の支払を免れることはできません。
労働基準法における会社の責任は、民法の賃金請求権における
会社の責任よりもその解釈の幅が広く、労働者を保護しているので、
賃金支払いは免れても休業手当の支払いは免れないケースは少なくありません。
しかし、感染症法による就業制限に該当するケースや労働安全衛生法等により
就業禁止となるケースは、会社の責任とは別次元の不可抗力の出来事であり、
休業手当を支払う必要はないとするケースが多いのです。
つまり、新型インフルエンザやO-157などにより就業制限や就業禁止に該当する場合は、
給与はもちろん休業手当の支払いは不要なのです。
もちろん、コロナウィルスもこれに該当します。
ただし、就業規則等へ正しく規定しておかないと労働紛争になることも多く、
結果、給与の支給が不要となっても、無駄な時間を費やし
紛争の対象となった社員は退職してしまうこともあります。
ちなみに、ノロウイルスや季節性インフルエンザなどを罹患した社員を
会社の出勤停止命令で休業させれば、休業手当(平均賃金の60%以上)を
支払うことが必要となります。
さらに、労働契約法第5条では、
会社に対して従業員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務
(安全配慮義務)を求められています。
感染症にかかった社員が出社することによって、他の従業員に感染し業務ができないということでは、
会社は安全配慮義務を怠ったということにもなりかねません。
就業規則等に正しく規定し、労使双方に不利益が無いように運用することが
重要なことがご理解頂けると思います。
コロナウィルス問題は働き方改革を強制的に推し進めることになりつつもあります。
例えば、『在宅勤務』『リモートワーク』『時差出勤』『テレビ会議』など、
既にテレビやネットでも、多様な働き方についての報道もされています。
「物流事業者には関係ないことだ!」という声が聞こえてきそうですが、
物流事業者だって『工夫』は必要です。
例えば、点呼における工夫。
点呼ではアルコールチェックが必須ですが、衛生管理を通常以上に
徹底することは言うまでもありません。
また、同じ時間帯に多くの乗務員が集まって点呼を行わないように
工夫することや、マスク着用が難しい場合には、10分に1回程度少量の
緑茶を飲みながら業務にあたる(コロナウィルスが喉に付着しにくくなる)など、
できることはあります。
朝礼や終礼を実施している会社は、一時的にチャットやLINEなどにより報連相を行うこと。
事務員は在宅勤務。
工夫できることはたくさんあると思います。
「社員と相談しながら一生懸命取り組む」これが大切であり離職防止にも有効です。
そして、工夫をしている様子などをHPやSNSで発信することが
新しい労働力を獲得するために有効でもあります。
実は働き方改革関連法には『産業医、産業保健機能の強化』という義務があります。
今回綴ってきたことは、まさに、みなさんの会社の安全衛生管理体制において
対応、対策を推進する問題なのです。
それは、常用職員50名以上の事業場に限ったことではありません。
常用職員1名でも、100名でも、1000名でも、100000名でも、
安全衛生管理体制を整え、法令が定める安全衛生活動を実行しなければなりません。
その安全衛生活動において産業医は2018年までは『健康診断』に限った支援が中心でした。
しかし、2019年4月1日以降、働き方改革関連法施行により、
労働環境、労働実態、勤怠状況、健康診断結果、ストレスチェック結果などのデータから
総合的に判断した健康指導や就業制限などを行うこととなりました。
そして、社員へ直接的に健康指導をしたり、安全衛生委員会(安全衛生推進会議)へ
積極的に参加することにより遂行することとなっているのです。
職場の安全衛生活動の進め方が分からない、という会員は遠慮なく相談のメールを下さい。
私及びコンシェルジュが責任をもって対応致します。
それでは、次号の3月号もお楽しみに。