社労士の労務管理アドバイス Vol.28
こんにちは。社会保険労務士の伊藤治雄です。
今月も、実際に相談を受けた労務トラブルの事例をもとに皆さんの会社がよりレベルアップしていくためのヒントをお伝えします。
【今回のテーマ】
「退職する社員から有給休暇を申請された場合の対応」
【相談内容】
先日退職を申し出た社員から「退職日まで有給休暇を使い切りたい」との申し出がありました。
引き継ぎもまったく終わっていないのに、退職日まで出社しないと言っています。
こんな身勝手な社員に給与を支払わなければならないのでしょうか。
【アドバイス】
労働基準法により、企業が退職時に有給休暇をまとめて取ることを拒否することは不可能です。
法的に認められている会社の対応は、その休暇を与えることが、事業の正常な運営を妨げる場合に、取得時季を変更することができるだけです。従って退職時に年次有給休暇を請求された場合には、この時季変更権が機能しないことになります。
引き継ぎなどの関係で該当社員に出社してもらいたい、有給消化のために退職日を引き延ばしたくないなど場合は、有給休暇の買い取りを検討するのも手段の一つです。
買い上げ金額にルールはありませんが、通常有給休暇を取得した場合は、就業規則等に平均賃金もしくは所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金などで計算した額の賃金を支払わなければならないとされているので、同等の額を支払えばよいでしょう。
有給休暇の買い上げは、通常は認められていませんが、退職によって取得できなくなる年次有給休暇を買い上げる場合は、違法ではないと考えられています。
会社のメリットとしては、以下の4つが挙げられます。
①従業員が引継ぎ業務を実施してくれる
②円満退職の合意書が取りやすい
③社会保険料の会社負担がなくなる(退職日によっては、余計な保険料が発生する)
④休暇中に何か起きても責任はない(退職すれば社員ではなくなる)
従業員のメリットとしては、以下の4つが挙げられます。
①年次有給休暇を買い上げてもらえる
②解決金の場合は退職所得となる(税金はほとんどかからない)
③解決金については社会保険料や源泉所得税の負担がなくなる
④職安で雇用保険の手続きが早くできる、あるいは退職日の翌日から再就職できる
退職時に年次有給休暇を一括請求されると、感情的には腹立たしいとは思います。
しかし、法律で定められている事なので、日頃から従業員に休暇を取得してもらい、メリハリをつけた働き方により業務効率を上げていく発想にシフトしていくことが求められています。
社員の退職時に誤った対応をすると、不要なトラブルに発展する可能性があります。